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工芸品撮影録

2024/11/18

HASSELBLADのプロ向けサポートは健在

CRAPHTOのメイン機材であるH6D400cMS、今年の中頃から調子が悪くなり連続撮影を行うとエラー表示が起きるようになってきました。スウェーデン本国において修理対応するに至った顛末を紹介します。

H6Dが故障、熱暴走は故障なのか仕様なのか

問題が起こり始めたのは昨年の冬頃、連続撮影を行うと撮影が止まってしまうことがあり液晶表示にRestart Camera(ID121:0)の表示が出るようになりました。この手のエラーはデジタルバック式中判カメラは珍しいことではなく、特に古いタイプのデジタルバックは部品(ボディ、バック、レンズ、ファインダー、電池、メデイア、ケーブル)を全部バラして組み立て直すと解消するケースもありました。H6Dもボディとデジタルバックを着脱したり、接点部をクリーニングすれば大抵のエラーが直ります。

9ピン仕様の接点部(レンズ)、接点不良はアルコールでクリーニングすれば大抵が解決する。

その際も同様に解決したので、特に問題に思いませんでした。しかし別日での撮影中にどれだけ分解結合、クリーニングしても解決せず、バックアップ機(H4D200MS)で撮影を行わざるを得ないという状況になりました。翌日には何事もなかったかのように動きましたが、連続撮影をするとエラーで撮影がストップしてしまいます。テザーソフトのPhocus上では様々な操作は行えるのですが、シャッターを切っても画像を得ることができないのです。騙し騙し撮影を行っていると、ついには通常のシングルショットでもエラーが起こるようになりました。

バック部が発熱しているので熱暴走、オーバーヒートを疑いました。近年のミラーレス機の動画撮影において高解像度、高フレームレートで長時間作動させるとセンサーが熱をもって、撮影停止のエラーを起こします。時間を置いて冷やせば再度使用できることから、その症状が当てはまります。ただスチル用途でオーバーヒートはよほど高温になる夏場以外では普通は起こり得ません。オーバーヒートは製品仕様として仕方ない点ではありますが、一般のスタジオ使用で頻繁に起こるとなると困ります。

撮影の一コマ、1日に20〜50点の着物生地を撮影。ブツ撮りにおいても数百ショットのシャッターを切る。

H6Dには動画撮影機能がありますのが、そちらを起動してみると同じく撮影がうまくできません。ライブビュー機能をONにしてみると、ノイズの乗った状態が続いて適正な画像を得ることができませんでした。これらの問題を解決するにはセンサー、デジタルバック部を冷やすことです。H3DからH5Dのマルチショットモデルにはデジタルバック部にヒートシンクが設けられていて、通常モデルに比べて全長が少し長くなっています。しかしH6Dの場合はCOMSセンサーになって発熱が抑えられるからか、マルチショットモデルも外観は同じになりました。それが影響しているのか、うまく排熱をしてやらないと連続撮影に耐えられない仕様になっているのでしょうか。

専用の空冷ファンがないため、スポットクーラーを当てる強引な手法

空冷ファンを取り付ける等の措置は動画機でよくある手法ですし、スポットクーラーを当てつつ、撮影に臨むことになりました。しかし繊細なマルチショットを行うにはクーラーの振動はご法度で、都度撮影を止めて冷やすことで撮影テンポが大幅に遅れます。このままでは仕事になりませんのでタイミングを見計らってハッセルブラッドの日本法人であるハッセルブラッドジャパンに修理を依頼することになりました。

原宿のハッセルブラッド旗艦店は閉鎖、サポートはメールのみ

実は2023年5月でハッセルブラッドジャパンの原宿の旗艦店が事務所含めて閉鎖となり、セールス関係はDJI(Hasselbladの親会社)のドローンを取り扱う株式会社セキドに移管されてしまいました。修理関係は引き続きハッセルブラッドジャパンで対応ということでしたが、これまでは直接お店に持ち込み対応ができたことを考えると残念です。

閉店してしまったHASSELBLAD TOKYO、評判の良い口コミが並ぶ。

修理の旨をメールで連絡したところ、担当の方とその上長含めて退職されていました。事務所閉鎖に伴い人員体制に大きく変更があったようで、サポート体制がしっかり維持できるのか大変不安になります。エラーの内容からしてセンサーボードの修理交換が必要になり、その場合はスウェーデン本国送りとなるので納期が最大半年かかると告げられました。さらにハッセルブラッドジャパンのH6D400cMSの代替機が出払っていて、修理中のスペア供給ができないということでした。スウェーデン本国においても現在予備機がないようで、対応が難しいとのこと。

CRAPHTOで保有している予備機のH4D200MSを使用しても十分な解像度や色精度を出すことができますし、いざとなればタイリングを行えば解像度の面でも問題ありません。しかし被写体の数が多い場合、やはりH6Dc400cMSが必要になってきます。数週間後に長期間の大型撮影を予定していたこともあり、クライアントに迷惑をかけるわけにはいきません。どのみち予備機が必要なことから、代替え機がないなら新規で追加購入したいと申し出ましたがそれも在庫なしとのことで、お手上げ状態になってしまいました。

エラーが出ると都度デジタルバックを冷やすしかない。。

仕方がないのでスポットクーラーを当ててデジタルバックを冷やし、時間がかかっても撮影をしていく方法で検討を始めました。この方法では何回撮影したタイミングでエラーが起こるかわからず、冷却にかかる時間も読めないことで非常に安定性が悪く往生します。結局はH4D200MSのタイリングおよび、アップスケーリングの方が効率が良く、H6D400cMSの方を予備機とすることにしました。

HASSELBLADの最大限のサポートに満足

試行錯誤している中、なんとかスウェーデン本国から修理中の代機が確保できたとのことで連絡が入りました。輸送リードタイムからすると撮影予定日にギリギリ間に合いそうだということで早速手配してもらいました。迎えた撮影日当日、スウェーデンからやってきた代替え機には「DEMO」の文字が。デモ機も含めて本当になんとか探してくれたのだろうという気がします。撮影は10日間ほどの長さに及びましたが、安心感をもってスピーディに撮影に臨むことができました。

そして修理品は最大6ヶ月と言われていましたが、実質1ヶ月程度帰ってきました。早速テストをしてみるとマルチショット撮影の歩留まりがなぜか向上しています。もともとセンサーをXY方向に微細に動かすことで生じる千鳥格子模様が発生するのですが、その頻度が大きく減少していて解像感の高い画像を得ることが可能になりました。ピエゾキャリブレーションなどの物理的な調整かファームアップによるものなのかわかりませんが、非常に良い状態にブラッシュアップされて返却されてきました。そして一連の修理費用は「0円」、今回のセンサーボードの故障は製品保証の対象内ということのようです。ある程度の高額修理を覚悟していたので誠意ある対応には大変助かり、メーカーとしての責任感、信頼感が大変高まりました。

スウェーデン本国で検査されるH6Dバック部、リペアセンターは東京から撤退してしまった。

Hシステムはプロ向けの機材ですし、機材の故障で撮影がストップしてしまうと顧客の信用を失いかねない事態になります。すでに製造販売が終了してしまい、東京の事務所が閉鎖で対応が心配でしたが今回は最大限のサポートをしてもらうことができました。メールの対応がベースとはなりましたが、反応が非常に早く的確に答えてもらえますので安心です。

Hシステムはすでに過去のモデルとなってしまいましたが、その完成された中判一眼レフシステムを愛するプロユーザーは世界中にたくさんいます。今後もハッセルブラッドのスピーディで素晴らしい対応を末長く期待したいと思います。

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HASSELBLAD Hシステムのサポート体制

製造が終了してしまったHシステムですが、2024年末時点においてはメーカーの修理サポートを受けること可能です。日系のカメラメーカーの場合、一般的には製造終了後7年間は修理部品をストックし、修理対応することが多いです。長期間の使用が想定された、耐久性が高いプロ向け機材の場合、製造終了後も10年以上の修理対応が可能になることもありますし、特に欧州メーカーは部品のストックが続く限り修理対応しますという傾向があります。

ハッセルブラッドの各Hシリーズ(H1〜H6D)はプロ機ゆえにある程度耐久性を持たせた設計で、スウェーデン鋼のボディに守られたHボディは相当に酷使しない限りへこたれません。メカニカルな部分はVシステム以上に堅牢(デジタルになってシャッター回数が激増)で、初期モデルのH1/H2は製造から20年以上たった今でも問題なく動く個体が沢山あります。レンズやアクセサリーも同様で、20年以上前に作られたものが最新のH6Dで機能させることができます。

H6Dに適合する20年以上前に作られたフィルムバック(富士フイルム製)

しかしフルメカニカルでシャッターを切ることができたVシステムとは異なり、Hシステムは電気部品が多く使われています。カメラとして使うにはバッテリーパワーを要求し、レンズの駆動にもモーターが使われ、CPUで制御されている現代のカメラです。コンデンサーが一つ故障しただけである日突然動かなくなる危険性をはらんでいます。さらにデジタルバック部に至っては電子部品の塊ですし、センサーフィルターの剥離などの別の問題も発生してきます。形あるものいつかは壊れる、カメラもいつか使えなくなることを考慮しないといけませんが、プロが使う道具としては何かあった際のサポートが必須となります。

メーカーとしても修理部品をいつまでも持ち続けるわけにはいきませんし、普通はどこかでサポート終了のアナウンスが入ります。しかしHasselbladの場合は機種ごとにサポート終了というアナウンスはなく、古い機種であっても一様に切り捨てずに直すことができるものは直すというスタンスです。

Hasselblad.com/support

上記リンクは過去の機種のサポート状況が記載されていますが、例えば2002年に作られたH1はメカ部分の修理は可能、2006年のH3Dはメカ部分に加え、バック部のIRフィルター、リンクボードの交換が可能です。2010年のH4D以降はいまだフルサポート対象ですから、いかにハッセルブラッドの修理体制が長期に渡って構築されているかがわかります。

さらにメーカーが修理サポート終了したものについても別の専門業者がサポートしてくれる体制が構築されています。

https://hasselbladrepair.com/

上記リンクは「B23ApS」というハッセルブラッドの公式に認定した修理業者で、ハッセルのOB(製造マネージャー)が立ち上げたデンマークの修理業者です。ハッセルブラッドがサポート対象外としてしまった過去の製品も、部品在庫がある場合はサポートしてくれます。修理にはコペンハーゲンに送る必要があり多少時間がかかりますが、最後の駆け込み寺として大変助かる存在です。

製造販売が終了してしまったHシリーズですが、このように手厚いサポート体制がとられていることから、まだまだ安心して使い続けることができそうです。

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