故人の軌跡を次世代へ デジタル図録・冊子を制作

CRAPHTOではデジタルカタログの作成だけでなく、紙の冊子の制作も行なっています。今回は10月に行われた故 山形満さんの遺作展(京町家のギャラリー玄想庵)に合わせて作成した図録・冊子制作について紹介します。
山形満さんは国画会正会員(木工・漆)でありつつも個展等の販売活動をほとんど行うことなく、黙々と目の前にある仕事に打ち込み続けた方でした。人間国宝出会った黒田辰秋に師事していたことを公にせず、あくまで独立した一人の個人作家として活動されていた彼の作品や道具からは、ひたむきに仕事に打ち込まれていた様子が伝わってきます。
玄想庵にて13年ぶりの個展を行う予定でしたが急逝され、展示会用に用意していただいた作品を中心に遺作展を開催する運びとなりました。開催にあたっては販売向けの全作品を撮影してデジタルカタログの作成を行うことに加え、特別に冊子の制作も行いました。
今回は会期中の様子を含めて撮影や冊子制作について紹介したいと思います。
遺作展に合わせて図録を発行することが決まり、作品を全て持ち込んで撮影を行いました。

工房に残されていた作品を車2台で運び出し、広間に一旦すべて広げます。ここからスタジオに一つ一つ持ち出して順繰りに撮影を行なっていきます。お盆、茶道具、小箱など9つに類別を行い、カテゴリーごとに同じ構図となるように撮影を行いました。
吹き漆による鈍い光沢感を正確に表現するのはハードルが高い撮影になりますが、一つ一つ作品の特徴を見極めながら丁寧に撮影を進めていきます。

図録用の写真だけでなく、冊子に使うイメージカットも撮影していきます。
イメージカットでは素材の力強さ、山形さんの加工の妙が写真から伝わるように、被写体に近づいてクローズアップ撮影を行います。背景には究極の黒を表現してくれる太黒門という特殊な起毛シートを使用して撮影、被写体が闇の中か浮かび上がり、作品の力強さが全面に押し出される絵作りになります。

そして今回は作品を数点外に持ち出して、ロケ撮影も行いました。普段は京町家を背景に撮影することが多いのですが、山形さんは1997年に正伝永源院(建仁寺の塔頭)で個展を開催されているご縁もあり、境内を舞台に特別にロケ撮影させていただくことができました。素晴らしい庭園や歴史的価値のある襖絵などを背景に作品撮影を行い、冊子のイメージ写真に加えることができました。

冊子作成にあたっては、新たに写真撮影をしたものに加え、山形さんの生前に撮られた作業写真や、スケッチなども素材として組み込みました。当初冊子は出展作品の図録を中心とした48ページ程度で予定していたものの、素材写真が意外に多く集まったため72ページにボリュームアップしています。
完成した冊子がこちら。A5サイズ程度の大きさと、手にとってもらいやすく、当日そのままカバンに入れてお持ち帰りもできるサイズ感です。

表紙は木目をイメージして「ひたむき」という言葉をノミの形にデザイン、裏の「満」のサインは赤い箔押しで加工がされています。イメージカット、工房や永源院でのロケの写真に加え、今回の遺作展の全作品の概要図録の構成で限定200部制作を行いました。
展示会の開催にあたっては配布するDMにQRコードを挿入、そこからデジタルカタログにアクセスして、あらかじめ作品に関する理解を深めてもらえるようにしました。会期前から複数問い合わせがあり、会期中も何を求めるか絞って決めてこられるお客様が多いことに驚きました。


今回の展示会は初日から開場前に並ばれるお客様がおられるなど、故人とその作品に強い思いを抱いて来場される方が多い会でした。弔問客と言っては語弊がありますが、「しのぶ会」として生前に親交があった様々な方が来場されました。会期の二日目あたりからは出品作品がカテゴリーによって完売となり、後半は作品展示はしてあるものの、ほとんどが売約状態でお求めいただくものがないという事態になりました。
ギャラリーとしても想定外で、しぶしぶ冊子図録をお求めいただくという状況でした。

展示は終わり、故人が遺した作品は方々に旅立って行きました。今回展示に来れなかった方、これか故人のことを知る方、そしてご家族の方がいつまでも閲覧できますよう、WEBサイトは引き続き公開状態にしています。
なんらかの形で故人の想いと軌跡を次の世代へ繋げることができれば幸いです。
https://craftcatalog.jp/yamagata-mitsuru/