微細なブレを抑えるBerlebachの木製三脚

CRAPHTOが行う超高精細撮影ではマルチショットという複数回シャッターを切って合成する手法をとります。スタジオでは振動が起きないコントロールされた環境下で撮影を行いますが、ロケ撮影においては風や車の振動等で外部環境の制御が困難なことがあります。そんなとき活躍してくれるのが意外にも昔ながらの木製の三脚です。
現在のフィールド三脚といえば軽いカーボン素材が主流です。一昔前は先進素材として一部の高級三脚にしか採用されていませんでしたが、現在は様々なメーカーから販売されていて珍しいものではなくなりました。カーボン素材はアルミ三脚に比べて振動を伝えにくいという特性もあり、ブレるのを防ぐのにも有効です。さらに冬場は凍りつくような冷たさを感じることがありませんし、夏場でも金属のように膨張することがなく、環境に左右されにくい理想の素材です。

GITZO製のカーボン三脚、小型で2kgを切る軽さは携行性抜群。
このようにカーボン三脚は様々なメリットがあり、現代のフィールド撮影の主役になりましたが、軽すぎるが故の弊害も出てきました。従来の金属製(アルミや、スチール製)の三脚と比較した際、物理的な自重不足による安定性の欠如が起こるのです。特に重い機材(望遠レンズ、雲台を含む)を載せる場合は重心が高くなりますので、機材の重量を受ける足が軽いものでは不安定となります。スタジオ撮影においては重さが正義で、500kgにもなる巨大なスタンドや、昔ながらのスチール製の大型三脚が使われているのは、一切のブレを許容させないためです。
しかしフィールド撮影にそれらを持ち出すのはナンセンス、そこで登場するのが昔ながらの木製三脚です。
カーボンをも凌駕する木製三脚の圧倒的な振動減衰性能
「木製=クラシックで見た目がオシャレな三脚」と思ったら大間違いで、実はブレを抑えるのに最も理にかなった素材です。
カーボン自体はその加工の柔軟性と剛性の高さから振動を伝達しにくい素材ですが、どうしても振動をゼロにすることはできません。カーボン三脚は炭素繊維を樹脂でガチガチに固めた構造です。非常に硬い素材なため振幅(揺れの大きさ)自体は小さく抑えられますが、素材そのものが硬すぎるため発生した振動が内部でなかなか吸収されず、高周波の微振動がしばらく残り続ける特性があります。

カーボンは剛性が高く、加工特性にも優れるが、振動が残り続ける。
しかし木製三脚は素材が天然の木のため、無数の細胞壁と空気の隙間(多孔質構造)を持っています。これが実に高性能なダンパー(衝撃吸収材)として働くため、シャッター衝撃や床からの振動などで一度発生してしまった振動を、内部で素早く吸収・減衰して消してしまうことができます。木製三脚自体はアルミやカーボン三脚の登場前から存在していました。特に揺れが作業効率に致命的な影響を及ぼす測量現場(測量機)や、非常に大きな倍率のかかりブレが目立ちやすい天体望遠鏡ではまだまだ現役です。
慶応年間に使われていたイギリス製の木製三脚一体のカメラ
微細なブレを抑えるBerlebachの木製三脚
現代では写真撮影の現場からは姿を消してしまった木製三脚ですが、実はまだドイツのBerlebach(ベルレバッハ社)によって製造されています。森林が豊かなザクセン州のMuldaに拠点を置く同社は120年以上の歴史を誇り、天体望遠鏡向けから一般の撮影用途まで様々なサイズを製造、雲台や経緯台などのアクセサリーも手掛けています。
Berlebachは撮影用の木製三脚専業メーカーだけにその完成度は高いです。脚の開閉角度の調整、高さの調節、カメラ雲台への取り付けといった当たり前のことが、実はシンプルな測量用や天体用はスムーズすることができないのです。これを普通のカメラ三脚と同じように木を使って製造してしまうところがBerlebachのすごいところです。
Berlebachの三脚につかわれる木材は、地元のエルツ山地で採れるトリネコの木(アッシュ材)が使われています。アッシュ材は楽器やバットにも使われていますが、強靭な硬さと高い弾力性を併せ持ち非常に高密度な繊維構造をしています。これらの構造は楽器の優れた音響特性や、バットの適度なしなりにも有効です。

適度なしなりをもつアッシュ材、撮影に最適なダンバーとなる。
そして撮影の場においても、金属のように振動が反響して長く残ることがなく、カーボンよりも素早く衝撃をいなすアッシュ材は、1画素のズレも許されない精密な撮影において、最も理想的な「天然のダンパー(衝撃吸収材)」と言えるのです。
CRAPHTOではロケ撮影においてBerlebachのUNI19という木製三脚を使用しています。センターカラム付で単体重量だけで7kg以上となり、現行で最高の強靭さを誇るGITZOの5型カーボン三脚(GT5543LS)の重量が3kgを切っていますので、いかに重い三脚であるかがわかります。これに雲台(マンフロットのギア雲台400:3kg)、カメラ(H6D+レンズ:3kg)で13kgという超重量級のシステムになります。
CRAPHTOで使用している大型木製三脚、被写体への色被り防止のためグレーの塗装がされている。
アウトドアでの風や車などの振動は三脚に一定の重さがあり、据付がしっかりとしていればカメラへの外部からの影響は極限まで減らすことができます。しかしシャッターショックなどの内部から発生する振動についてはどうしようもありません。連写する場合はいくらシャッタースピードを上げても、次発時には前の振動が必ず残っていてブレにつながるのです。
CRAPHTOで使用しているHasselbladのレンズシャッターは一般的なメカシャッターに比べて非常に振動が少ないのが有名ですが、それでも超高精細撮影時にはしっかりと影響が出ます。マルチショット撮影の際にはシャッターショックによる振動が収まるのを防ぐために数秒おいて撮影を行いますが、これがカーボン三脚だと素早く吸収することができないのです。木製三脚の場合シャッターショックの振動自体伝わりにくいのですが、どうしても残った振動をゼロにするまでの時間が圧倒的に早く、作業効率が高まります。

この振動をいち早く収める機能は動画撮影にも有効で、特に野鳥などの高倍率撮影やスライダーなどを使ったマクロ撮影時のブレを抑えるのに助かります。また、動画機材はどうしても重くなりがちですが、三脚自体にかなり重量があるため姿勢の柔軟性にも富むのも嬉しいところです。
このように木製三脚は振動に対しては最高のパフォーマンスを発揮します。シャッタースピードや機材に問題がないのにどうしてもブレ写真が頻発する、取り除けなかったという方は一度木製三脚を試してみてください。木製三脚は現在お使いのどんなに高級なカーボン3脚と比較してウソのように振動問題を解決してくれることでしょう。
振動吸収性以外の意外な効用も
Berlebachの木製三脚の振動吸収性はスタジオ据付の大型スタンドにも劣らず、可搬性があることからフィールドの最終兵器として知る人ぞ知るアイテムです。そして振動吸収性の他にもユーザーに愛される理由がそのデザインと機能美です。すぐに木製とわかるその意匠は、無機質で無骨な従来の三脚と異なり、そのままインテリアとしても使うことができるほどです。あの有名なドバイの「ブルジュ・アル・アラブ」の各部屋に設置されているとか、、
実はクラフトでは大型のUNI19以外にも小型のReportシリーズも使用、こちらは木の温もりを感じることができるウッドカラー仕様です。
左が大型のUNI、左は小型のReport。
CRAPHTOでは実際に和室での寄席などで、撮影機材の圧力を減らし雰囲気を壊したくない動画撮影等で使用しています。
そして各所の機能美がしっかりとデザインの美しさに追いついてきています。木製でありながら、脚を広げる際の手応えは驚くほどスムーズです。金属製のヒンジと木材のクリアランスが高精度に組み合わさっていて、ネジを締め込むと剛性が高まり信頼性をもたらします。脚のロックノブやセンターポールのクランプは、冬場のフィールドでグローブをはめた手でも確実にトルクをかけられるよう、大きくエッジの立ったデザインになっています。
和室に馴染む木製三脚は機材を周りと調和させることができる。
いかなる最新の高級カーボン三脚もBerlebachの木製三脚の圧倒的な振動吸収性、木製がもたらす意匠美には勝つことができません。昔ながらのアナログな三脚が現代の超高精細撮影技術を支えているのはどこかロマンがあります。
今回は写真機材ではあまり紹介されることのない珍しい木製三脚について解説しました。
