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工芸品撮影録

2025/02/13

SONY α7RVのマルチショットは真に「高画質」か

デジタルカメラに使われるイメージセンサーの発達は目覚ましく、普及機ですら数千万画素と中判デジタルバックが領域としていた超高画素ラインに突入しています。それらは様々な技術の進歩、組み合わせによって高画素化を達成しています。しかし本当にそれらは真に「高画質」といえるのでしょうか。最新の高画素35mmフルサイズ機を検証しました。

2025年2月現在、35mmフルサイズセンサーにおいて最も高画素なものは6100万(ソニー製CMOSセンサー)のものです。9568×6380もの膨大なピクセル数が35.9×23.9mmのサイズの中に敷き詰められており、その画素ピッチは3.76μmとなります。一般的に画素ピッチが大きければ大きいほど一回の露光で取り込める光の量が多くなり、高感度耐性が良くなるなど画質面で有利とされています。画素ピッチが狭いと特に高感度域での画質面で不利になるのにも関わらず、裏面照射CMOSセンサーの登場や画像処理エンジンの進化により一昔前は超高画素と言われた画素数を当たり前のように扱えるようになりました。メーカー各社では高画素モデルの投入が相次ぎ、SONYでは高画素番長としてα7Rシリーズがラインアップされています。

最新モデルは5世代機のα7RVで6100万画素のセンサーが搭載され、ピクセルシフトマルチ撮影においては16ショットを合成することで2.4億画素(19008×12672ピクセル)という途方もないデータ量を提供します。さらに画像内の動きを検知をしてワンショット画像に差替え処理を行う動体補正を実装するなどスタジオ以外での活躍が見込まれるそうです。

昨今においては様々なメーカーからボディ内手ぶれ補正機構を利用したマルチショット機能がリリースされています。しかしメーカーの用意した専用ソフトや、独特のカメラ内での合成処理においてはマルチショット画像の確認、編集に非常に手間がかかります。LightroomやCaptureoneといった定番テザー撮影ソフトではマルチショット機能を使うことができず、沢山の被写体を撮影していく「仕事」においては理想的とはいえません。しかしSONYの純正専用ソフト「Imaging Edge Desktop」はRemote、View、Editと機能が分散していて使いにくいものの、テザー撮影、画像合成、画像の修正を行う一連のワークフローを行うことができ、なんとか及第点とも言えます。

今回のマルチショットのテストに使用した被写体は1ドル札の表面、お札は高精度で非常に細かいラインが走っておりシビアな被写体です。そして常に一定のクオリティで入手製が高いことから誰もが同じ条件でテストすることがきる点においても理想的な被写体です。この1ドル札をカメラから5m先に設置された壁に設置して撮影してみました。使用するレンズも6000万画素センサーに適応可能なレベルが求められますが、今回は最高の解像力をもつことで名高いSIGMA製の105mm F2.8 DG DN マクロレンズを使用、このレンズは一絞りしたところから最高の解像度が得られますのでF4に設定、定常光で撮影しています。

まずは1ショット、このブログは長編1200ピクセルで写真投稿していますが、お札の長編が1200ピクセルには届かず900ピクセル程度になりました。5mも離れて撮影されたのに文字などを読むことができます。しかし細かな模様のディテールは潰れていて全体的に眠い印象を受けます。プレビュー時から発生していたジョージワシントンの肖像の頬の部分の緑系の偽色が残っていますし、枠の部分には黄色の偽色が所々に発生しています。一般の撮影では問題にならないかもしれませんが、CRAPHTOが行う工芸、美術品の撮影、特にアーカイバルな写真分野においては画質面で失格です。

その解決策がピクセルシフトマルチ撮影(PSMS)、センサーを少しつづずらして16枚を撮影、それらを合成することで偽色を解消、4倍の解像度を得ることができます。SONYの純正専用ソフト「Imaging Edge Desktop」のRemoteにおいてはPSMSをテザー撮影することが可能です。撮影は非常にシンプルで撮影モードをPSMSに切り替えてシャッターコマンドを入れるだけ、あっとゆう間に16枚の撮影が終わり合成画像(RAWデータ)が出力されました。

出力されたデータをJPEG現像したのがこちら、ぱっと見ただけで解像感の高い写真であることが見て取れます。実際の長辺サイズは1800ピクセル近かったので、ブログ投稿サイズの長編1200ピクセルにリサイズしています。

比較しやすいよう、先の1ショットデータを1200ピクセルに引き伸ばして掲載します。

PSMSをつかうことで解像度がぐっと上がり、細かなディテールが表現できていることがわかります。ワシントンの頬の偽色も解消され、全体的にも色味の変化がみられます。こちらの画質を経験してしまうと、ワンショットの画像での撮影はできるだけ避けたくなるレベルです。以前テストしたCANON機(R5)のハイレゾショット1億画素は解像感がUPしていないのにも関わらず色相変化が悪い方向に出ていたことを考えると、一連のテストにおいてSONYα7RVのPSMSは非常に有効な機能であることがわかりました。

SONY PSMS(16Shot) VS 中判カメラのマルチショット(6Shot)

ソニーのPSMSの有効性は認められましたが、それが真に「高画質」と言えるのでしょうか。今回は中判カメラのマルチショット(HASSELBLADのH6D400cMS)と比較してみます。このカメラが搭載する中判センサーは53.9×40.4mmという巨大なもので、35mmフルサイズセンサーと比較して約2.5倍の面積があり、そこに1億画素(11600×8700ピクセル)という膨大なフォトダイオードが敷き詰められています。その画素ピッチは4.6μmとなり、α7RVが3.76μですから1ピクセルあたりの単純な面積比は1.5倍ということになります。画素数、画素ピッチともにH6D400cMSが有利な条件が揃っており、α7RVがまともに勝負するのは厳しいはずです。

H6D400cMSのレンズはHC120mmⅡマクロレンズを使用、シグマの105mm F2.8 DG DNとコンセプトの似たレンズです。35mm換算すると焦点距離が80mm程度と異なりますので、条件を合わせるためにお札の大きさが同じになる距離に近づいて撮影します。こちらも一段絞ってF5.6、条件をできるだけそろえるため定常光でライティングしました。SONYのPSMSは16枚もの画像を合成しますが、Hasselbladのマルチショットは6枚のみで合成が完了、専用ソフトのfocusは撮影、閲覧、編集モードが一元管理されているので便利です。当たり前のことではあるはずですが、このワークフローをスムーズに実現している他のソフトがないのでメーカーは参考にして欲しいものです。

さてその結果ですが、やはりHasselbladの圧勝でした。撮影で得られたデータ自体は等倍でパッとみても判別しにくいのですが、200%以上に拡大してみると本当に良い画質とはなんぞやということがはっきりわかります。

右がHasselblad H6D400cMS、左がSONY α7RVとなります。

画像は各部を等倍で切り出したものを、わかりやすいよう長編1200ピクセルにアップスケーリングしたものを比較しています。α7RVは解像感が低いうえ、よく見ると偽色もまだ残っています。一方のH6D400cMSは非常に端正な画像でさらなる拡大にも耐えそうなレベルです。CRAPHTOの提供する超高精細画像ビューワーは200%まで拡大ができますので、本当に高画質な写真でないと粗が出てしまいます。

高い解像感を演出してくれたα7RVのPSMS画像ですが、それは真に高画質とは言えませんでした。今回テストに使った1ドル札は大変シビアな被写体で、200%以上に拡大しないと本当に解像しているか判別することができません。特にスマートフォンなどの小さな画面においては、ピクセル等倍で鑑賞していては人間の目の能力が追いかないわけです。しっかりと画質の良し悪しを見極めるには200%以上に拡大比較する必要があるのです。

画素ピッチの非常に小さなセンサーを、手ぶれ補正機構を副次的に利用して完璧なタイミングでシフトするのはどうしても無理があります。ライカSL3(6000万画素)が従来モデルSL2(4700万画素)の搭載していたマルチショット機能を廃止してしまいましたが、低画素兄弟機のSL3-S(2400万画素)にマルチショット機能が実装されているのは、やはり画素ピッチが大きなセンサーの方がセンサーシフトの効果が大きく、有用と判断されているからでしょう。

以上、SONY α7RVのマルチショットは非常に有用ですが真に「高画質」かと言われると肯定には及ばず、まだ改善の余地があるようです。ニコンのように撮影枚数を増やす(32shot)ことで更なる高画質化を目指す考えもあり、今後の画像処理技術の向上でさらなる精度UPを期待したいと思います。

 

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